転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


91 失われた大発見?と新たな魔法の使い方



 マジックバッグを腰のポシェットに入れてから冒険者ギルドを出ると、外はもう夕方になっていた。
 と言う訳で僕たちは今日の行動をこれで切り上げて『若葉の風亭』へ。お風呂に入ってから晩御飯をお父さんと二人で食べたんだ。

 そしたら急にそわそわしだすお父さん。
 これはあれだ。今回もお酒を飲みに行きたいんだけど、中々言い出せないって感じだね。
 だから僕から言ってあげたんだ。僕はここでやる事があるから行っていいよって。

 そしたらお父さんは嬉しそうな顔をして、

「そうか。なら行ってくるが、1人で外に出るんじゃないぞ?」

 と言い残して部屋から出て行ったんだ。

 もう! 行きたいならそう言えばいいのに。別に僕、お酒飲んじゃダメなんて言わないのになぁ。


 お父さんを送り出してからは僕1人の時間だ。
 と言う訳で早速、今日冒険者ギルドで預かったマジックバッグをポシェットから取り出した。

「今では作り方が解んなくなってるってロルフさんは言ってたけど、本物を調べても解んないのかなぁ?」

 手の中のマジックバッグをひっくり返したり、光に透かしてみたりしながらちょっとの間観察。でもそんな事をしても何にも解んないって事で、僕は鑑定解析を使ってみる事にしたんだ。

 で、出た結果はと言うと。

マジックバッグ
 取り付けられた魔石により、入り口が異空間に作られた収納空間へと繋がった魔道具。

 まぁそうだよなぁ。マジックバッグを調べたんだから、当然こう出るよね。
 因みにこれとは別に容量とかも出たけど、それはあまり関係無いからとりあえず横に置いといてっと。

「それじゃあ本命の、この星マークをっと」

 マジックバッグではなく、丸で囲まれたペンタグラムを鑑定解析。すると空間を現す魔道回路図記号って出たんだ。

「空間かぁ。マジックバッグは異空間に収納空間を作ってそこに保管する魔道具なんだから、僕もこれがそんな意味の記号なんだろうなぁって思ってたけど……でも、この記号だけじゃ当然収納空間を作る事なんてできっこないよね?」

 収納空間を作るって意味では空間だけでいいんだろうけど、でもそれだとそこへ繋げる方法が抜けてるんだよね。
 と言う訳で、僕はこのマジックバッグのもう一つの特徴である5つの魔石に目を向けた。

 ペンタグラムの5つの先端にそれぞれ付けられた魔石の色は黒。いや、かなり濃い青紫かな? って事はこの袋と同じ色だよね。これは関係あるのかなぁ?

 まぁ見てるだけじゃ解んないから、とりあえず魔石を鑑定解析。

 時空間属性の魔石

 そしたらこんな結果が出たんだ。
 ん、時空間属性? どこかで聞いたような?

 なんかつい最近見た気がするんだけど、その時にもっと別の事に気を取られてたのかどこで聞いたのかよく覚えてない。

 こんな言葉が出てくるとしたら冒険者ギルドか錬金術ギルドだけど……まぁどっちも明日行くんだし、その時聞いてみればいいや。
 それにこの魔石の属性も調べればこうやって簡単に解ったんだから、多分この魔石を用意してこの空間の記号につけてもマジックバッグにはならないと思うんだよね。

 だって、それで作れるのなら、もう誰かがやってみたはずだもん。それなのにまだ作り方が解んないって事は、もっと別の原因があるはずなんだ。

 そう思った僕は、今度は袋自体に目をつけた。

 魔石と同じ色の袋。って事はこれにも何かあるのかもしれない。
 そう思って今度は袋を鑑定解析。すると、こんな結果が出てきたんだ。

マジックバッグ
 取り付けられた魔石により入り口が異空間に作られた収納空間へと繋がった魔道具。

 ……
 ………
 …………

 当たり前じゃないか! 袋を鑑定するって事はマジックバッグを鑑定するって事なんだから、何度やっても結果は同じだ。

「もう! 何やってるんだよ、僕は」

 そう思いながらも、ここで僕は行き詰ってしまう。

 だって使われている袋に秘密があるって解っても、肝心のその袋の解析ができないんだもん。
 いや、多分使ってる布を調べれば別の結果が出てくると思うんだよ。でもその布に鑑定解析をかけたくても、それはすでに袋の一部なんだからどうやったって同じ結果しか出ないんだよね。

 だからと言って借りたマジックバッグを破って布を取るわけにもいかない。

「そうだよね。今までも色んな人が調べたと思うし、その中にはとっても偉い学者さんとかもいたと思うもん。僕がいくら一生懸命調べたって、そう簡単に作り方なんて解るはず無いよ」

 結局僕はさっきの間抜けな失敗の事もあって、ちょっと不貞腐れ気味にマジックバッグの秘密を調べるのをここであきらめたんだ。
 そして諦めちゃったせいで僕は、今日解った事まで頭の隅っこに追いやってしまう事になる。実は物凄い発見をしていた事にも気が付かずに。



 そのまま不貞寝した僕が朝起きると、いつの間にかお父さんが部屋に帰って来てて隣のベッドで寝てたんだ。
 なのでお父さんを起して一緒に宿の食堂へ移動。朝食を食べてから、村から乗ってきた馬車を宿に預けたままにして森に入る登録をする為に一度冒険者ギルドへ向かった。

 そこで名簿に名前を記入にてメダルを貰ったらそのまま門へと向かってイーノックカウを出発、そして森に着いたら入り口の喧騒を無視してそのまま中へと入って行ったんだ。

「ルディーン。今日はそれ程時間があるわけじゃないから、取り合えずさっさとお前の魔法でブレードスワローを見つけてくれ。ギルドからは3匹狩って来いって言われてるけど、折角森まで来たんだからお土産用に2〜3匹持って帰りたいからな」

「うん。ブレードスワローのお肉、美味しいもんね」

 本当は来ないはずだった森だし、お父さんもこう言ってるから早速行動開始だ。

 索敵魔法で調べてみると入り口近くにブレードスワローの反応は無し。でも少し奥まで入った所に数匹いるみたいだったから、そこへお父さんと向かった。

「ほら、あそこ」

「ああ、確かにブレードスワローだな」

 ブレードスワローがいる場所は森の入り口から結構離れてたから、もしかしたらそこに着くまでに飛んでっちゃうかなぁ? なんて心配してたんだけど、無事見つけられて一安心。
 でも残念な事にブレードスワローは僕たちと反対方向を向いてるんだよね。

「でもあれだと胸は狙えないなぁ」

「それは仕方ないだろう。どのみち家への土産も必要なんだからさっさと狩って次行くぞ」

「うん」

 と言う訳で体に魔力を循環させるとマジックミサイルを……撃とうとした所でふとある考えがひらめいた。

 そう言えば攻撃魔法って、レベルが上がったら射出場所を変更できるんじゃなかったっけ?

 他のゲームではあまり見られない仕様なんだけど、ドラゴン&マジック・オンラインの魔法の中にはレベルの上昇によって使い勝手が良くなるものがあるんだよね。

 多分これは原作がTRPGだからなんだろうけど、いろんな物語に出てくるシチュエーションを再現できるように魔法をカスタマイズできたんだ。例えば、いつもより多い魔力を消費する代わりに攻撃魔法の威力をあげたり、打ち出される数を多くしたりとかね。
 
 それでなんだけど、マジックミサイルやフレイムボルトみたいな単発の攻撃魔法の場合、習得レベルから魔法ごとに決められたレベル分だけ高くなると同時に発動できる数を増やす事や違う場所から魔法を飛ばすことができるようになるんだよね。

 ほら、物語だと自分の周りに何個か魔法を準備させて一斉に飛ばしたり、相手の頭上から魔法の雨を降らしたりする場面、あるでしょ? あれを再現できるようにって事なんだと思うんだ。

 ただ、ゲームのころはそんなに遠くに射出場所を配置できなかったんだよなぁ。
 何故遠くにできなかったかと言うと、魔法を選んでから発動するまでの間にカーソルを動かして射出場所を選ばないといけなかったからなんだ。

 それと、実は射出位置を変えてもゲーム的には何のメリットも無いんだよね。
 見た目は派手になるけど威力は変わらないし、こんな仕様があるにもかかわらずドラゴン&マジック・オンラインの魔法はどうやっても避けられないから、どこから撃っても変わらないんだよね。

 だから一部のネットでプレイを配信している人以外は誰もわざわざ射出場所の変更なんてやらなかったんだ。

 でも、今この状況ではその射出場所を変更できるというの、物凄く役に立つんじゃない?

 確かマジックミサイルの最初のカスタマイズレベルは+5レベル。で、マジックミサイルは1レベル魔法だから6レベルになればカスタマイズできるはずなんだ。
 そして今の僕は10レベルだからこれに当てはまるんだよね。

 と言う訳で、ステータス画面からマジックミサイルの項目を開く。するとゲームの時同様カスタマイズって項目があって、そこには灰色の文字で書かれた<弾数を一つ増やす>と<射出位置変更>の二つがあったんだ。
 だからその内の<射出位置変更>を指定。するとその文字が白く変わった。

 よし。これでマジックミサイルを撃ち出す場所を変えられるはずだ。

 と言う訳で改めてブレードスワローに目を向ける。
 そして魔力を体に循環させてから、小さな声で、

「マジックミサイル」

 そう唱えた。

 でも一向に魔法は発動しない。
 それはそうだよね。だって射出場所を指定するまでは発動しないようにしたんだから。

 と言う訳で、僕は射出場所をブレードスワローの前方にいど……。

「どうしたんだ、ルディーン!? 魔法が発動しないぞ!」

 クエッー!

 叫ぶお父さんと、その声に驚いて飛び立つブレードスワロー。

「もう! お父さんが大きな声出すから逃げちゃったじゃないか!」

「いや、だって今魔法が……」

「言い訳はしちゃダメって、いつもお母さんも言ってるでしょ!」

「ううっ……すまん」

 大声出したら逃げるに決まってるじゃないか。
 もう! 大人なのにそんな事も解んないなんて、ホント困っちゃうなぁ。




 ハンスさん、今回のは流石にちょっと可哀想。
 いや、でも魔法が発動しなかったからって、狩りの最中に大声を出すのはダメだよなぁ。

 あと時空間の魔石と言うのは、前に出て来たジャンプの座標指定に使うあれです。
 まぁルディーン君がそれを覚えていたとしても、今解っている事だけではマジックバッグは作れないんですけどね。


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